セブンを迎え撃ち ファミマが沖縄で伸び続ける理由
ローソンとスリーエフが資本業務提携の交渉を発表(2015年8月)、サークルKサンクスを運営するユニーグループ・ホールディングスとファミリーマートが経営統合に基本合意(同年10月)、ファミリーマートがココストアを完全子会社化(同年10月)――。この数カ月間のうちにコンビニエンスストア業界で大きな地殻変動が起きている。日本フランチャイズチェーン協会によると、かつて50以上あったコンビニチェーンは、2000年ごろをピークに今や半数に。一方で、店舗数全体は増えていることに加えて、セブン‐イレブン、ローソン、ファミリーマートの大手3社が市場全体の約8割のシェアを占めるなど、寡占化が止まらない。今後もコンビニ業界の再編はまだまだ進むと見られている。
そうした中にあって、今後の市場動向を占う上で注目したい地域が沖縄だ。沖縄といえば、大手3社のうち、セブン‐イレブンが唯一出店していない県である。現在、このエリアで最大手のコンビニといえば、258店舗を展開する沖縄ファミリーマートである。
同社はファミリーマートのエリアフランチャイザー(エリアFC)として1987年に設立。ファミリーマートは現在、南九州ファミリーマート、北海道ファミリーマートもエリアフランチャイザーとしているが、沖縄の設立が最も早い。
沖縄ファミリーマートの2015年2月期決算は、売上高528億1200万円(前期比6.8%増)、経常利益は14億4200万円(同1.3%増)と、15期連続の増収増益となった。2016年2月期の売上高は571億8300万円を見込んでおり、長らく好調が続いている。
沖縄ファミリーマートの親会社は、沖縄で唯一の百貨店「りうぼう」やスーパーマーケット「リウボウストア」などを運営するリウボウグループである(株主構成:リウボウ51%・ファミリーマート49%)。リウボウホールディングスの糸数剛一社長は、まさに沖縄ファミリーマートの事業成長の礎を築いた人物として知られているのだ。
糸数氏は沖縄ファミリーマートが設立して間もない1988年に入社。1998年に取締役営業部長、その後、開発部長兼総合企画室長、常務取締役、専務取締役を経て、2007年〜2009年に米FAMIMA CORPORATIONの社長兼CEOを務めた経歴を持つ。
●徹底したローカライズ戦略
沖縄ファミリーマートがビジネス成長するきっかけとなったのは、「ローカライズの徹底」にあるという。設立当初はファミリーマート本部から持ち込まれた商品やキャンペーン企画をそのまま東京の店舗と同じように展開していたが、苦戦を強いられた。「本部は、東京で人気の商品や企画を沖縄に持って行っても売れるという発想だったが、コンビニとはその土地の日常に根付いているもの。そのやり方は通用しなかった」と糸数氏は振り返る。
例えば、あるキャンペーン企画で、当選者は東京や大阪で開催されるコンサートに招待するとあっても、距離的な問題などから沖縄から行く人はほとんどいなかった。なのに、そうしたキャンペーンが次々と持ち込まれたという。
そこで沖縄で開催するイベントなどを対象にしたキャンペーンに変更した。同時に商品もテコ入れ。沖縄ファミリーマート独自の中食メニューを開発し、「タコライス」や「ゴーヤ弁当」といったロングヒット商品を生み出した。最近では「泡盛コーヒー」なども人気である。
実はこうしたローカライズ商品は地元の消費者だけでなく、沖縄を訪れた観光客にも人気を博している。旅行などで地方に行けば、その土地オリジナルの商品を期待するのは当然。観光客が土産に購入していくようになり、今では『ファミマに行けば沖縄らしいものが買える』と言ってくださる観光客が増えた」と糸数氏は力を込める。現在では全商品の2〜3割がローカライズ商品だという。この取り組みが功を奏し、店舗の1日当たりの売り上げが当初の倍以上となる約62万円にまで伸びたそうだ。
このような地域の独自性を打ち出せるのは、エリアFCならではの強みでもある。糸数氏によると、経営の意思決定や決裁などのスピードは速く、商品開発も柔軟に行えるという。かたや本部の役割も重要で、例えば、従業員の技術指導やシステム導入などは本部の力に頼るところが大きい。このバランスをうまくとって経営のかじ取りをすれば、エリアFCの強さはより発揮されることになる。
沖縄ファミリーマートの成功を裏付けるように、2009年10月にはローソンが沖縄のスーパー大手・サンエーと合弁でローソン沖縄を設立した。ローソンは1997年に沖縄進出していたものの、事業拡大に行き詰まりを感じ、地元色を強くして成長を加速させたいというのが背景にある。
●沖縄特有の事情
そうした中で今、セブン‐イレブンの動きに関心が高まっている。セブン‐イレブンは今月末に鳥取県に初出店するため、いよいよ未進出エリアは沖縄だけになった。では、これまでなぜセブン‐イレブンは沖縄に進出しなかったのか。
その理由について、糸数氏は「同社が掲げるドミナント方式に当てはめると、離島の沖縄は物流効率を追えないので難しいのでは」と見る。ドミナント方式とは、店舗ごとに商圏を隣接させながら店舗網を広げ、商品供給の仕組みなどを効率的に作っていくやり方で、いわばセブン‐イレブンのお家芸ともいえる。
ただし、まったく進出の意欲がないというわけではない。沖縄への具体的な出店計画についてセブン‐イレブンからは回答を得られなかったが、「十数年前から立地調査などを進めているのは確認済み」と糸数氏は言う。
一方で、2020年に東京オリンピックの開催が決まったことで、少しトーンダウンする可能性もあるという。というのも、やはり国内最大の商圏は東京なので、各社ともオリンピックまでにそこに力を振り向け、店舗を増やすなどしたいという考えがある。通常、コンビニは物件選びから開業までだいたい3〜5年かかるとされており、オリンピックに向けて今まさに動いておかねばならないからだ。
●それぞれの地域で勝つ!
さて、来るべきセブン‐イレブンの沖縄進出に対し、沖縄ファミリーマートはどう迎え撃つのか。「実際に早く進出してくれた方が具体的な策を打てる」(糸数氏)というが、基本的には現状での取り組みをしっかりと継続していくことが重要だとする。
その1つがリウボウグループ全体でのシナジー創出だ。現在、デパートリウボウでファミリーマートのプライベートブランド(PB)商品「ファミリーマートコレクション」を販売する一方で、ファミリーマート店舗ではデパートに並ぶような高級感あるチョコレート商品などを販売している。また、ファミリーマートのPB商品のノウハウを生かして、りうぼうストアの袋パンやデザートを商品開発している。かたや、魚の刺身などの生鮮食品をりうぼうストアから一部のコンビニ店舗へ直接搬送し、それを販売する仕組みを作っている。
「沖縄においてはデパートリウボウのブランド価値が高いため、そこにファミリーマートの商品が並ぶことでファミリーマート自体の価値も上がっている」(糸数氏)など既に相乗効果が出ている。いずれはバックヤード業務の効率化なども図っていきたいとする。
そのほか、インバウンド需要の取り込みや、アジア諸国のファミリーマートとの連携も強化する。沖縄ファミリーマートは台湾のファミリーマートとの関係性が強く、例えば、沖縄明治乳業と共同開発したアイスを現地店舗で販売したりしている。
「現在ファミリーマートは業界首位ではないが、沖縄ではナンバーワンである。セブン‐イレブンが進出してきた後もトップを獲り続けていれば、今後のファミリーマート全体の戦略にも大きな影響を与えるだろう。つまり、それぞれの地域でトップを獲ることで、セブン‐イレブンに勝っていくという発想につながるはずだ」