「白タク」が日本でも解禁?実現には懸念の声も

「日本を訪れる外国の方々の滞在経験を、より便利で快適なものとしていかなければなりません。このため、旅館でなくても短期に宿泊できる住居を広げていく。過疎地等での観光客の交通手段として、自家用自動車の活用を拡大する」ー。10月20日の国家戦略特別区域諮問会議で安倍首相はこう述べ、「ライドシェア」解禁への意欲を見せた。
禁止行為だった「白タク」
「ライドシェア」は、一般人が自家用車を使って有償で人を目的地に運ぶサービスで、日本ではいわゆる「白タク」と呼ばれてきた行為にあたる。欧米を中心に世界展開をみせる米国発の「Uber(ウーバー)」のサービスでは、スマートフォンのアプリの位置情報を利用して近くにいる一般人の運転する自動車を呼び、アプリで対価を払って移動手段として利用することができる。
日本では、自家用車を使って有償で人を運送することは、道路運送法で原則禁止されている。ウーバーは今年2月、日本でも福岡市と周辺市町でスマートフォンアプリを利用したライドシェアの「実証実験」を始めたが、国土交通省から「白タク行為」であるとみなされ、中止指導を受けていた。
しかし今年度に入り、「ライドシェア」解禁へ追い風が吹き始めた。安倍首相は今年4月に米カリフォルニア州シリコンバレーを訪問した際、ライドシェアサービスを手がける「Lyft(リフト)」社のCEOと懇談。そして6月に閣議決定された「日本再興戦略」には「シェアリングエコノミーなどの新たな市場の活性化のために必要な法的措置を講ずる」と明記され、民泊や車の相乗りなど、一般人の家や車を共有(シェア)して対価を払う、消費者間での経済活動「シェアリングエコノミー」が政府の経済成長戦略の一つとして位置づけられた。
過疎地では歓迎の声も、安全面などに課題多く
政府は「ライドシェア」を、まずは過疎地域で解禁する考えだ。交通の便が悪い過疎地域を抱える地方では、「白タク」の解禁を歓迎する声も聞こえる。政府の国家戦略特区に指定されている兵庫県養父市は「過疎地域での交通の便の悪さが課題だった。住民の交通の選択肢が広がるのはよいこと」と歓迎する考えだ。同じく特区の秋田県仙北市は「現段階ではライドシェアの導入までは考えていないが、観光客の利便性向上のためタクシー料金の引き下げが課題となっており、選択肢の一つとしては検討していきたい」と話す。IT企業などでつくる「新経済連盟」は、「2020年東京オリンピック開催時の訪日外国人観光客の急激かつ一時的な移動需要の増加に対応できる」などの利点を強調し、政府に都心部も含めた「ライドシェア」の解禁を促す。
一方で、安全面や地域経済への影響を指摘する声は根強い。全国のタクシーやハイヤー、観光バス会社などの労働者でつくる「全国自動車交通労働組合連合会」は、「事故が起こった際の補償や責任体系もきちんと定められておらず、インドでは運転手によるレイプ事件も起こって大問題になっている。お客様の安全を確保することができない」と安全面の課題を主張する。また、「低料金の白タク行為が、地域の路線バスなどの公共交通を破壊してしまうおそれがある」との懸念も指摘。すでに欧米では「ライドシェア」に対するタクシー業界の反発が強まって訴訟問題にも発展しており、日本でも解禁に向けたハードルは依然高いといえそうだ。