サーティワンアイス、40年ぶり赤字のピンチ

アイスクリーム店「バスキン・ロビンス31アイスクリーム(以下、サーティワンアイス)」を運営する、B-R サーティワンアイスクリームの2015年12月期が、1975年度以来、実に40年ぶりの最終赤字に転落する可能性が浮上してきた。夏場の天候不順、コンビニエンスストアに需要を食われたことなどにより、既存店売上高が5期連続で前年割れ。原材料の高騰、新工場稼働に伴う償却負担増も、採算を圧迫する。


B-R サーティワンアイスクリームは、「ダンキンドーナツ」や「バスキン・ロビンス」を運営する米ダンキン・ブランズ社と、ライセンスおよび技術援助契約を締結している。それによって、日本におけるアイスクリーム類の製造・販売、フランチャイズ方式によるアイスクリーム販売の組織化、運営に関するノウハウ提供を受けている。

 会社が第3四半期(2015年7〜9月期)決算発表と同時に発表した下方修正値は、売上高184億円(前年同期比1.1%減)、営業利益0.9億円(同85.5%減)、経常利益1.3億円(同78.5%減)、最終利益0.1億円(同96.4%)だった。修正要因はアイスクリーム販売の最盛期である、7〜9月期の天候不順だったことがあるが、「徐々にコンビニから需要を食われていることも大きい」(管理本部経営企画室担当者)という。かろうじて最終黒字を見込む計画だが、予断を許さない状況だ。

 上期40円だった配当に関しても期末は未定とする。同社は近年、上期40円、期末40円を配当してきた。仮に通期で減配となれば、1988年度以来、27期ぶりとなる。

アイス専業店では圧倒的な強さ


サーティワンアイスの店舗は、9月末時点で1181店舗。アイスクリームチェーンは他にも、オレンジフードコートが運営する「ディッパーダン」(2014年4月末時点、124店舗)や、コールド・ストーン・クリーマリー・ジャパンが運営する「コールド・ストーン・クリーマリー」(9月末時点、約30店)などがあるが、アイス専業店という形態では、サーティワンアイスの店舗数が群を抜く。

アイスクリームの市場規模自体は、順調に伸びている。一般社団法人日本アイスクリーム協会によると、アイスクリーム類および氷菓販売金額は2014年度に4369億円で、3年連続で拡大した。同協会資料で、最もさかのぼれる2005年度の市場規模と比べると、2割以上の伸びを示している。

 ただし、アイスクリームチェーンには、かつて異業種だったコンビニという存在が立ちはだかり始めた。大手3社が加入する一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会によると、コンビニの店舗数は、9月末時点で5万3108店あり、サーティワンアイスなどのアイス専業店よりも規模は格段に大きい。これまでコンビニのアイス販売とアイス専業店の販売とは食い合わなかったが、「近年コンビニもアイス販売に力を入れており、競合になった」(前出担当者)と見られている。

 アイスクリームのメーカー別シェアは、「爽(そう)」や「モナ王」を販売するロッテ、「ジャイアントコーン」や「パピコ」を販売する江崎グリコなどが、上位を占めている。これらの商品がコンビニを経由して売れていることが、サーティワンアイスのシェアを奪っているようだ。

驚異の「セブンプレミアム」


コンビニ自身もアイスの商品開発に力を入れ始めた。8月末時点で1万8092店舗ある最大手「セブン-イレブン」の運営会社セブン-イレブン・ジャパンでは、PB(プライベート)商品「ワッフルコーン」シリーズ(税込み183円)が売れ筋へと成長。セブン&アイ・ホールディングスが手掛ける、PBの総称「セブンプレミアム」シリーズは、すでにアイテム数が3000を超えている。2016年2月末には「セブンプレミアム」全体で、年商1兆円に到達する勢いだ。

 アイスメーカーとのコラボ開発も進めている。「ハーゲンダッツ」シリーズのハーゲンダッツ ジャパンと「ジャポネ <抹茶アズキ>」、赤城乳業の「ガリガリ君」と「スイーツなガリガリ君 ミルクたっぷりとろりんシュー味」などを発売したことを皮切りに、続々と新商品を投入している。

 「4〜5年前から、アイスは年間を通じて買われるようになってきており、それに合わせて新しい商品の開発を進めている」(セブン&アイ・ホールディングス広報部)。こうしたアイス市場の潜在力に目覚めたコンビニの攻勢が、サーティワンアイスの足場をジリジリと崩している。

売上高が縮小する中、B-R サーティワンアイスクリームにとってさらに打撃となるのが、コストの増加だ。

 まず、海外から輸入するアーモンドやフレーバーといった添加原料が、為替の円安を受けて上昇している。同社の場合、海外から輸入する原料は、全体の30%程度を占める。さらには国内の酪農家減少に伴う、構造的な供給減も影響。酪農家の戸数は、2015年の全国飼養戸数が前年比4.8%減の1万7700戸と、さかのぼれる範囲で19年連続減少中だ。1996年と比べ、その数は、実に約4割まで減少している(一般社団法人Jミルク調べ)。これによって、クリームミルクや脱脂粉乳といった、主原料の価格も上昇している。

 原料価格の上昇は、アイスクリーム業界全体に与える影響だが、同社固有の誤算も見逃せない。2015年4月に稼働した第2の生産拠点、神戸三木工場の稼働率が思うように上がらず、償却負担が重くのしかかっている。同工場の稼働は、最高益を更新した4〜5年前に決定した事案だが、市場環境の変化で目算が大きく狂ってしまった。

「キューブナイン」で巻き返しなるか


巻き返しに向けて、同社も手を打っていないわけではない。目玉となりそうなのが、2015年12月に発売を予定する、アイスクリームケーキ「CUBE9(キューブナイン)」。単価は税込み4300円に設定しており、販売が伸びれば、業績への貢献度が大きい。

 ただ、キューブナインは当初7月に発売する予定だったところ、成形に問題があり、発売時期が12月にずれ込んだ。これによって、当初、実施する予定だったキューブナイン単体でのテレビCMを取りやめることになったことは、気がかりだ。

 たとえ天候不順が一巡し、一時的に業績が浮上したとしても、当面は低調な販売トレンドが予想される。主原料の仕入れ価格上昇や償却負担の発生も、継続的にダメージとなろう。子どもたちをはじめ、幅広い層に支持されてきたサーティワンアイス。コンビニというかつて異業種だった存在と、互角に戦うことができるのか。かつてない苦境を迎えていることは間違いない。