特殊清掃業が見た孤立死の実態 「世の中の無情さ垣間見える」

山積みのごみ袋から悪臭が漂い、布団は体液の跡で人型にくぼんでいた―。死後数日から数カ月にわたり誰にも気付かれなかった孤立死。遺体搬出後、汚れた部屋を原状に戻す「特殊清掃」を業務とする会社は、実態を多く見てきた。家族や近所の無関心、カネへの執着…。表沙汰になることの少ない現場に「世の中の無情さが垣間見える」という。

 「部屋を片付けて」。10月、福井県内のアパートの大家から依頼を受け、従業員が駆け付けた。両側を空き部屋に挟まれた2階の一室。遺体は警察が運び出し、現場には体液が染みた布団、ごみ袋、床をはう大量の虫が残されていた。

 従業員が大家に聞くと、住人は60代男性で、死後3カ月がたっていた。大家が異変に気付き通報。親族が身元確認に訪れた。

 特殊清掃中、廊下ですれ違った別の住人は「あ、そうでしたか」と立ち去った。悪臭はアパート全体に漂っていた。「住人は気付かなかったか、おかしいと思いながら無視していたのだろう」。従業員は毎回の作業を通し、孤立死のむなしさを実感している。

 この会社では、年間10件ほどの清掃を請け負う。「大半の現場で、インスタント食品の容器などが入ったごみ袋が山積みになっている。誰の世話も受けず、独りで過ごした日々が目に浮かぶ」と担当者は言う。3人の作業で1〜2日かけ、特殊な薬剤とブラシで汚れを取り除き、消臭、除菌する。

 県内の一軒家では、高齢男性が自室で死亡して3日後に家族が見つけた。どういう理由からか、家庭内で男性一人だけが孤立。ふすま一枚を隔てて、ほかの家族と断絶した生活を送っていたという。

 「通帳と印鑑を探し出してほしい。相当ため込んでいたはずだ」。天井までごみに埋もれた家で男性が亡くなっていたケース。親族は特殊清掃の従業員にそれだけ伝え、「残りの遺品は適当に捨ててくれて構わん」と指示した。

 そもそも身寄りが見つからない事例もあり、その場合は行政機関が公費で火葬する。

 「各家庭でいろいろ事情があったのだろう。とはいえ、孤立死を防ぐ手だてはなかったのかと、仕事ながら胸が痛む」と会社代表者は話す。「うちだけで嶺北、嶺南を問わず多くの現場を回る。県内で何件あるのか想像もつかない」