小田急や東急並みに混む「新交通」の凄い実力


東京都交通局が運営する新交通システム「日暮里・舎人ライナー」(日暮里〜見沼代親水公園間)は、2008年3月30日に開業し、それまで鉄道に恵まれなかった、足立区西部の公共交通の主軸となっている。営業キロは9.7km。全13駅あり、平均駅間距離は約0.8kmである。無人運転方式の列車が、この路線を約20分で走破している。

開業初年度(2008年度)の日暮里・舎人ライナーの1日平均の輸送人員は約4万9000人であった。それが、2014年度には約7万1000人にまで増加している。

 建設前、需要調査などに基づいた1日平均の輸送人員は、実は5万9000人と予測されていた。この数に沿う適切な輸送手段として、地下鉄でも路面電車でもなく、「新交通システム(中量軌道輸送システム)」が採用されたわけだ。だが、最近の新規開業路線としては珍しく予測が上方へと外れ、開業後も対応に追われることとなったのである。

■ 相次ぐ増発でも混雑率187%

 これまでのわずか7年あまりの間の営業期間に、どれだけダイヤ改正、イコール列車増発が行われてきたか。1年ごと、もしくはそれに満たないうちに、繰り返し輸送力増強の必要に迫られていったのが、これまでの歴史だ。

国土交通省発表の混雑率データによると、2014年度の最混雑区間は赤土小学校前→西日暮里間。平日朝7時20分〜8時20分の間、3904人(定員244人×16本)の輸送力に対し7281人の乗車があって、混雑率は187%にも達していた。これは激しいラッシュで知られる小田急小田原線の189%、東急田園都市線の185%にも匹敵する混雑である。

 ただ、この統計が示している他の新交通システムの混雑具合を見ると、神戸新交通ポートアイランド線の最混雑区間では、1時間の輸送力(定員299人×23本)6877人に対し9178人の乗車があって、輸送人員では日本最多となっている。

 また、大阪市交通局南港ポートタウン線が1時間あたり24本(2分30秒間隔)もの列車を運転している例もある。

 日暮里・舎人ライナーも、需要に応えるだけ輸送力増強の余力はあるものと思われる。しかしながら、駅の設備上、編成を5両以上に延ばすことは容易ではなく、列車増発がその手段ということになる。

 むろん、東京都交通局も手をこまぬいていた訳ではなく、前述のように増発を繰り返したのだが、増発するには車両の数を増やす必要がある。5両編成の主力車両300形は、開業までに12本が新製されたが、2009年の7〜8月には早くも2本を追加増備。同年8月29日のダイヤ改正に備えられた。

■ ロングシートだと重量オーバーに

 300形については開業前、座席をロングシートからバスのような固定式の一方向きシートに交換するという一幕もあった。「ロングシートだとお客が乗り過ぎてしまい、車両の設計上、想定された重量を超えてしまう」という理由が公表されている。

 これは前代未聞の措置であったが、2009年製の13本目、14本目は、さらに押し寄せる利用客への対応に苦心した座席配置となった。ロングシートだと利用客が乗りすぎて重量オーバー。しかし、乗せないと混雑は解消されない。

 そこで、5両中4両(前後2両ずつ)の乗降扉の間を片側だけロングシートとし、もう片側の一方向きシートを2人掛けから1人掛けとしたのだ。重量オーバーとならずに、どこまで利用客を乗せることができるか。ギリギリの妥協点を探ったかのような「改良」だった。なお、この座席の変更は、既存の12本にも追って施されている。

 300形は、2011年9月と11月に15本目と16本目がさらに増備された。同年12月3日ダイヤ改正向けである。そして、2015年10月31日改正へ向けては、新形式330形が用意されている。この車両は、車体をアルミニウム合金製とし、300形より大幅に軽量化することで、重量の問題を解決。座席をロングシートにできた。編成定員も300形の244人に対し262人と増えている。


最混雑区間・時間帯の1時間あたり輸送人員において、7281人という数字は、おおまかに言うと、首都圏や関西圏を除く中小私鉄よりはるかに多く、東京モノレールを除く各モノレールの約2〜3.5倍にも達するものである。

 同程度、あるいは日暮里・舎人ライナー以下の輸送人員となっている地下鉄も、首都圏以外には存在する。大阪市営地下鉄千日前線の鶴橋→谷町九丁目間(7769人)、京都市営地下鉄東西線の山科→御陵間(7520人)などだ。

 需要予測はオーバーしたが、さらなる輸送力増強は可能なので、日暮里・舎人ライナーに新交通システムを採用したことは妥当であったと考える。

■ 地下鉄を掘るより安い新交通

 日暮里・舎人ライナーは、ほぼ全線が既成市街地を縦貫する尾久橋通り(都市計画道路放射第11号線)の直上に、高架構造で建設されている。この幹線道路は1日約4万台の自動車通行台数があった。

 道路を自動車交通と兼用するLRTを敷設するならば道路拡幅が不可欠だが、道路沿いにはビルや商業施設も多く、大規模な用地買収は難しい。

 道路はもちろん、荒川などの下にもトンネルを掘削する必要がある地下鉄と違い、新交通システムは工事中の自動車交通を阻害することが少なく、建設費も安くつく。こういった点も、計画時には考慮されたに違いない。

 けれども、難点がないわけではない。

 日暮里・舎人ライナー開業前の、尾久橋通り沿いの主要交通機関は都バスで、「里48系統」が日暮里駅前〜舎人間などを結んでいた。ところが朝夕などには慢性的な渋滞により、全線の所要時間が1時間にも及ぶことがあった。それゆえ、軌道系交通機関の導入が切望されたのだ。

ところが、日暮里・舎人ライナー開業により都バス里48系統が廃止されたかといえば、そうではない。日中に、1時間に1〜2本程度の運転に減らされたとはいえ、日暮里駅前〜見沼代親水公園駅前間などに、今も走っている。

 これは日暮里・舎人ライナーの駅間距離に対し、里48系統のバス停間隔の方が短く、高架駅での乗降を好まない高齢者を中心に、バスの需要も残ると判断されたためだ。

 二重投資気味と言えなくもないが、補完関係があると解釈しよう。夕刻、日暮里駅前で見ていた限りにおいては、都バスは座席をそこそこ埋める程度の利用はあった。

■ さらに乗客増えるとどうなる? 

 また、見沼代親水公園駅は足立区と埼玉県川口市との都県境ぎりぎりの位置にあって、埼玉県側からの利用も多く路線延伸の要望も強い。だが、あくまで東京都の事業であるため、埼玉県に乗り入れるには新たに第三セクター鉄道を設立するなりしなければならない。

 東京メトロ南北線の赤羽岩淵駅以北への延伸が、埼玉高速鉄道との相互直通運転という形を取ったのと同様である。

 もっと喫緊な課題としては、沿線の急速な都市化があるだろう。

 まだ、開業から7〜8年ほどしか経過していないため、日暮里・舎人ライナーが走るエリアは以前からの一戸建てを中心とした住宅街のままで、高層住宅はそれほど多くない。工場跡地などもないので、大規模マンションが林立する都市風景になるとも考えにくいが、「陸の孤島」から一転。

 交通至便な土地となっただけに、どう転ぶかもわからない。例えば、沿線に多い都営住宅の建て替えが具体化した時、もし高層化イコール住民の増加となればどうなるか。注視していきたいところである。