銀座のホステスは労働者じゃない? 東京地裁判決が「プロ契約」と判断したワケ

労働者として勤務していた東京・銀座のクラブから不当に解雇されたとして、ママとして働いていた女性(45)がクラブ側に損害賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(鷹野旭裁判官)は「労働契約ではなく、業務委託契約だった」とし、女性は労働者ではなかったとの判断を示した。「クラブで働く女性は労働者ではないのか?」−。インターネット上ではこの判断に疑問の声も上がった。この女性が労働者に当たらないとされた理由とは…(小野田雄一)

 11月5日の判決によると、女性は平成25年11月、▽出勤は月曜〜金曜、午後9時〜午前1時

▽報酬は女性が売り上げた額の60%

▽契約期間は原則1年

−などとする契約をクラブ側と結んだ。

 その年の11月は118万円(出勤11日)▽12月は247万円(同17日)▽26年1月は60万円(同15日)▽2月は100万円(同6日)−の報酬を受け取った。しかし2月中旬にクラブ側から「店の方針と合わない」として契約を解除することを伝えられた。

 女性は26年に「労働者に対する不当解雇だった」として、契約満了までに受け取れたはずの報酬額として約1200万円をクラブ側に求める訴えを起こした。

 争点は

(1)女性側は労働者だったのか

(2)仮に労働者ではなく業務委託契約だった場合、契約解除で女性側に生じた損害をクラブ側が賠償する責任があるのか

(3)クラブ側に損害を賠償する責任があった場合、その額はいくらが適切か

−という3点だった。

 女性側は「クラブ側とは労働契約が成立しており、労働者だった。労働契約法などに違反しており、契約満了までの報酬を支払う義務がある」と主張。一方、クラブ側は「労働契約ではなく、才能と裁量によって店に利益をもたらす対価として報酬を支払う業務委託契約だった。契約解除に伴う損害を賠償する責任はない」と反論していた。

 争点(1)について、東京地裁は、他のホステスは日給制で労働時間も決められていたが、この女性は出勤するかしないかや何時に出退勤するかが自由とされ、他のホステスとは待遇が違った▽女性の報酬額は、約150人の自分の顧客の支払額に対する歩合で決まっていたことから、女性の報酬は接客の対価ではなく、顧客を店に呼んでクラブに利益をもたらすことへの対価だった−などの理由で、「女性は、労働に対する対価をもらう存在としての労働者には該当しなかった」と認定、「女性は労働者ではない以上、未払い賃金は存在しない」とした。

 労働契約でなく業務委託契約だったと認定されたことで新たに浮上するのが争点(2)だ。

 民法651条は業務委託契約(委任)について、「委任は、当事者双方が自由に解除できる」と規定する一方で、「当事者の一方が相手方に不利な時期に委任を解除したときは、その当事者の一方は、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、解除にやむを得ない理由があった場合は、賠償義務は生じない」と定めているためだ。

 今回の問題の場合、「クラブ側が女性との契約を途中で解除したのは、やむを得ない理由があったと認められるのか」ということが焦点になった。

 クラブ側は「女性がクラブのイベントに非協力的だった上、他のホステスの客を奪うなどしたためホステスらの不満が増し、店の雰囲気が悪くなった。女性側に非があり、契約解除はやむを得なかった」と主張した。

 しかし東京地裁は、「クラブ側の主張を裏付ける証拠がない」などとして、契約解除にやむを得ない理由があったとはいえず、女性に生じた損害についてクラブ側は賠償責任があると認定した。

 賠償額に関する争点(3)については、東京地裁は「女性の平均月額所得は131万円だった」と認定。ただ、女性はこのクラブとの契約解除後、本来の契約期間が終わる26年11月までに、別のクラブで働き約900万円の報酬を得ていた。そのため東京地裁は、契約が続いていれば受け取れていた金額から、(契約が続いていれば別のクラブで働くことはできないため、本来は受け取ることのできなかった)この900万円を差し引いた額が女性の損害に当たるとし、損害額を198万円と算定、クラブ側に支払いを命じた。

 女性側の代理人を務める弁護士は「過去、この女性と同じ契約形態でクラブママとして働いていた女性が、労働者として認められた判例がある。今回の判決は不当だ。高裁の判断を仰ぎたい」と話し、控訴する意向を示している。

 今回の判決は、この女性とクラブ側の契約が、接客サービスに対して対価をもらう一般的なものではなく、大勢の顧客を持つ女性が自身とクラブ双方に利益をもたらすことを期待された「プロ契約」だったと認定したものだ。

 すべてのホステスやママがこの女性のようなプロの働き方をしているわけではないため、一律に「クラブで働いている女性は労働者ではない」と結論付けるのは早急といえそうだ。