人民元主要通貨 円の存在感維持が課題に
人民元が特別引き出し権(SDR)に採用され、世界3位の国際通貨の座を確保した。ドルを基軸通貨とする体制は当面変わらないとの見方が多いが、アジアのインフラ投資や国際金融分野では、日本と中国との競り合いが強まりそうだ。国際通貨基金(IMF)幹部は11月30日、「ドルが支配的な現行システムが、より多極的になる可能性を開いた」と述べ、市場規模も大きいユーロと人民元が主要通貨の役割を担うとの見方を示した。とりわけ中国は、国際取引の決済でドルを使う「ドル基軸体制」に挑戦しているように見える。
米国は第二次世界大戦後、復興資金の供給などを通じ、ドルが世界中で使われる体制を築いた。基軸通貨国は為替変動のリスクを負わず、自国通貨で海外からモノやサービスを買える利点などがある一方、世界経済の安定に目配りした金融や財政政策を求められる。
中国も貿易やインフラ投資などで人民元取引を増やしており、「ドル基軸」を脅かす存在に育つ可能性がある。ただ、それには「市場や法規制の整備が必要で、時間がかかる」(アナリスト)。共産党独裁体制のまま市場主導の経済に転換するのは容易ではなく、基軸通貨になるハードルは高い。
一方、日本にとっては、円の存在感を維持できるかが課題だ。麻生太郎財務相は1日の記者会見で「(円が)引き続き大きな通貨であることは間違いない」と述べたが、日本の貿易での円建て決済は輸出で4割、輸入で2割のまま推移。国境をまたいで発行される債券や銀行債務の市場では円建ての比率が1割未満で低迷し、決済通貨としては人民元に抜かれつつある。
中国は2008年のリーマン・ショック以降、シンガポールや英仏独などと金融協力を強化。元建て債券の発行▽人民元取引を決済できる銀行の設置▽機関投資家による中国本土の有価証券への投資解禁−−などを通じて、企業や投資家が中国と取引しやすい環境を整えてきた。しかし、日中関係悪化のあおりで、日本は出遅れている。政府は10月、人民元決済銀行の設置や機関投資家による投資を認めるよう中国に要請したが、めどはついていない。
アジアの貿易や投資で人民元が優位になれば、為替変動のリスクや両替のコストが減る中国企業との競争で日本勢が不利になる恐れもある。中国主導で来年にも発足するアジアインフラ投資銀行(AIIB)は当面、ドル建てで融資する見通しだが、人民元が国際通貨として認められたことで「元建て融資にも大義名分が生まれた」(アナリスト)との見方もある。