あのロイホが「ホテル運営」に熱を上げる事情


東京・浅草。眼下に浅草寺、その少し先に東京スカイツリーを望む好立地に12月17日、客室数270のホテル「リッチモンドホテル プレミア浅草インターナショナル」が開業する。

特徴は、訪日観光客への対応を強化している点だ。英・仏・中・韓・ヒンディーという5つの言語で接客可能な専用コンシェルジュを配置。同じ建物の下層階には、日本各地のアンテナショップが入った「まるごとにっぽん」という商業施設もある。

 このホテルが特に注力しているのが、ムスリム(イスラム教徒)の受け入れだ。ハラル認証を得た和食2種類・洋食2種類の専用弁当を提供するほか、手足を清める水洗い場、礼拝用マットやコンパスまで備えている。

■ 初の「インターナショナル」ブランド

 実はここ、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を展開しているロイヤルホールディングスが運営するホテルなのだ。1995年にロイネットホテル(現・リッチモンドホテル)の1号店を東大阪市に開業。現在は全国の都市部で35の施設を手掛けている。

 浅草のホテルは、その中で初めて「インターナショナル」を名前に冠した、訪日観光客特化型の旗艦ホテルになる。「海外客をしっかり囲い込みたい。インバウンド比率は5割を目指していきたい」と、ホテル運営子会社アールエヌティーホテルズの成田鉄政社長は意気込む。

 ロイヤルHDは、なぜそこまでホテル事業に熱を上げているのか。

同社の連結業績は2012年度以降、右肩上がりが続いている。2015年度も第3四半期(1〜9月期)までの段階で、売上高は前年同期比4.6%増の970億円、経常利益は同14.4%増の42億円と、好調を維持している。

 だが、その内訳はここ数年でガラリと変化した。2012年度はセグメント利益で外食が19.8億円とホテル(12.9億円)を上回っていたが、2015年度は第3四半期時点で外食が26億円、ホテルが25.6億円と、ほぼ拮抗する形となっている。

■ ファミレスの停滞とホテルの躍進

 背景にあるのが、外食事業の中核をなすファミレス、ロイヤルホストの停滞だ。

 人気メニューのアンガスサーロインステーキのたび重なる値上げ、高単価の新商品の投入などにより、客単価は2011年の1062円から2015年には1200円を超えるまで上昇した。こうした中で客離れが進み、既存店の客数は12カ月連続で前年割れに。その結果、既存店の売上高は2014年度以降、前年実績を下回る月が出てくるようになった。

 一方、ホテル事業は順調に収益を伸ばしている。既存施設は日本人の利用客が7割を占め、ビジネス用途のリピーターが多い。調査会社のJ・D・パワーアジア・パシフィックが実施した2015年国内ホテル満足度調査では、ビジネス需要が多い1泊料金9000〜1万5000円未満部門で、サービス、客室、ホテル設備、朝食などの項目でトップとなり、総合1位の評価を得た。

 浅草のホテルでは、国内人口の減少とインバウンド需要の増加を見据え、従来の客層とは異なる、新たな需要を掘り起こす構えだ。ロイヤルHDは、日本人の平均泊数が2.6日であるのに対し、観光が主目的の外国人は5.4日と滞在日数が長いため、客単価の上昇も見込めるとしている。

 同社の祖業は、1951年に始めた旅客機の機内食だ。前出のハラルミールにも、長年にわたる機内食づくりで培ったノウハウがふんだんに盛り込まれている。福岡のセントラルキッチンにはハラル弁当の生産ラインが2つあり、今後は提供ホテルを増やしていく計画だ。

 浅草の開業に先立つ12月5日、ロイヤルHDは東京スカイツリーのおひざ元である押上に260室のホテルをオープンしている。同社のIR担当者は「期初の業績計画に対してホテル事業が大きく上振れしている。今期は初めてホテルの利益が外食を上回りそうだ」と語る。

 既存ホテルの平均稼動率が約9割という現状を鑑みても、新規開業の2ホテルが来期の収益を牽引するのは間違いない。数年後には、ロイヤルHDはファミレスではなく、ホテルの会社として知られているかもしれない。