東芝 再生の道筋見えず…多難な「選択と集中」
東芝の不正会計問題は21日、過去最大の赤字と大幅なリストラを余儀なくされる事態に発展した。東芝は今後、原子力や火力などのエネルギー事業と一部半導体事業に経営資源を集中させるが、収益力を抜本的に高める道筋を示せたとはいえない。「家電で構造改革を断行し、事業の絞り込みと運営効率化を図る。エネルギー事業とストレージ(半導体の一部事業)に注力する」。室町正志社長は21日の記者会見で、事業の「選択と集中」を進める意向を強調した。
東芝は10月にも半導体の一部事業売却などを決めており、今回のリストラは第2弾。人員削減は家電部門の約3割、管理部門の約1割に及ぶ。赤字を垂れ流してきた家電部門の固定費を計530億円削り、ひとまず“止血”を図る内容だ。
テレビ事業は、海外2工場のうちインドネシア工場を売却。現地企業と合弁のエジプト工場は、事実上撤退する。テレビ、パソコンの開発拠点だった東京・青梅事業所も閉鎖・売却する。パソコン事業は分社化し、法人向けに特化。富士通やVAIO(バイオ)との統合も検討している。人件費削減などで、テレビ、パソコンなどの赤字事業を2016年度に黒字化したい考えだ。
ただ、パソコン市場は海外メーカーの格安パソコンやタブレット端末の普及で競争が激化しており、社内でさえ「弱者連合で事業強化につながるのか」など懐疑的な見方が根強い。14年度に世界で535万台販売したテレビは、4Kなど高精細テレビに特化したうえで、他社から供給を受けるなどして国内で60万台を売る体制に縮小するが、メーカー数が依然として多い中、ブランド力の低下で苦戦が予想される。
注力事業に位置付ける半導体やエネルギーを含む部門は売上高全体の過半を占めるが、成長の具体策は見えない。半導体部門で「稼ぎ頭」となっているスマートフォンなどの記憶装置「NAND型フラッシュメモリー」は世界シェア2位を誇るが、中国の景気減速などで業績に陰りがみえている。エネルギー事業も東電福島第1原発事故以降、原発の新規受注を獲得できない。東芝は「温暖化問題への対応で原子力は必要」「廃炉は大きなビジネスになる」としているが、事業を拡大できる保証はない。
室町社長は「来年度のV字回復を目に見える形で示さないといけない」と強調するが、再生の全体像を示せたとは言えない。今回のリストラで、東芝の財務が大幅に悪化するのは必至だ。成長事業と位置付けてきた医療機器事業の中核子会社の株式を売却するのも、財務悪化に少しでも歯止めをかけたいためだ。不正会計で信用を失い、資金調達にも制約が生じる中、再建は時間との闘いになる。
◇リストラ後手、傷広げ
東芝は、2013年〜15年にも家電部門でリストラを実施した。テレビ事業では、ポーランド工場を売却したほか、北米・欧州で自社生産・販売から撤退した。ただテレビは他社生産の製品に東芝のブランドをつけて販売を継続し、収益改善を果たせなかった。パソコンも含めて4300人の人員削減を行ったが、同業他社と比べ、「リストラが不十分だった」との指摘は多い。
09年3月期に7873億円と過去最大の最終赤字を計上した日立製作所は、当時の川村隆会長兼社長が「総合電機の看板を下ろす」と宣言し、テレビや自動車関連事業で計1万2000人規模を削減。鉄道といったインフラ関連事業などに経営資源を集中させ、15年3月期の営業利益は6004億円と過去最高を更新した。
21日の記者会見で、室町社長は「改革が後手に回り、申し訳ない」と陳謝したが、今回のリストラ策を巡っても「V字回復が期待できる抜本的な対策とは言えない」(電機業界のアナリスト)と厳しい評価がある。