スマホ販売“官製不況”危惧する声も ゆがみ是正、削られる販売奨励金
政府主導で進めてきた携帯電話の料金引き下げが、2016年にも実現する。NTTドコモなど携帯大手3社は、スマートフォン端末「実質0円」の元手となる過度な販売奨励金を縮小する方針を固めるとともに、割安な料金プランの導入も検討する。3社の寡占状態を背景にした販売競争のゆがみを改善し、透明性や公平性を根付かせることができるか。暮れのボーナス商戦でにぎわう今月20日。東京都新宿区のソフトバンク代理店の従業員は、苦笑交じりにこう説明した。「ソフトバンクも国には逆らいたくないようだ」。携帯電話の成約時に、ソフトバンクから同店に支払われる販売奨励金は、前週に比べ1割減った。総務省が18日、携帯電話料金の引き下げを携帯大手各社に指示したためだ。
一方、港区にある別のソフトバンク代理店は、少しでも契約を増やそうと「『最後』のキャッシュバック(現金還元)セール」を掲げた。高止まりしていた携帯料金に官のメスが入り、販売の現場では自粛ムードと“駆け込み需要”を狙う動きが入り交じる。
東京都内の代理店によると11月末から今月中旬で、販売奨励金が最も高額な機種は「アイフォーン6」だった。9月に新モデルが発売されて型落ちとなり、在庫処分を進めるためだ。高額な販売奨励金をキャッシュバックに充て、2年契約で1人当たり4万円の通信料金割引と6万円分の商品券の計10万円の還元を掲げた店も複数あった。
しかし、多額のキャッシュバックなどで他社からの乗り換え客を優遇するビジネスモデルを、総務省は「不公平な販売手法だ」と問題視した。利用料金の引き下げに加え、キャッシュバックの見直しなどの改善を求めた。今後、携帯事業者が販売奨励金を削るのは確実だ。販売店でも「年明けには、乗り換え客向けも手数料が無料になる程度の割引に落ち着くのではないか」(代理店の店員)と、“官製不況”を危惧(きぐ)する声も上がる。
国内の携帯市場は、アイフォーン1機種が全体の5割を占める。ドコモの場合、スマホ販売台数の4割をアイフォーンにするよう、米アップルから「ノルマ」を課された。他の携帯大手も同様に、一定水準の販売義務を負う。各社は大量のアイフォーンをさばくために、なりふり構わぬ手法で販売拡張を繰り広げた。
だが、総務省の掲げた料金引き下げ方針を受けて、NTTドコモなど携帯大手3社が発表する低料金プランは、データ使用量が1ギガ(ギガは10億)バイト以下で月額5000円程度の水準になる見通しだ。値下げに伴い販売奨励金の原資が圧縮されれば、スマホ市場に寒風が吹き、現在の活況に陰りが生じるとの懸念もある。
一方で、アイフォーンに偏重した販売環境が是正され、「国産スマホメーカーには追い風になるかもしれない」(NTTドコモ幹部)との見方もある。ヨドバシカメラマルチメディアAkiba(千代田区)では、販売奨励金が削られる見通しの来年、端末メーカーごとに機種を陳列したり、分かりやすい料金表示を工夫したりするなど、一般の家電商品と同様の販売体制に転換する方針だ。料金是正が国内携帯市場の「正常化」につながるか。各社の販売競争は新たな岐路を迎えている。