ゆうちょ限度額 引き上げに民間反発 業務拡大を警戒
政府の郵政民営化委員会(委員長・増田寛也元総務相)は25日、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額と、かんぽ生命保険の加入限度額をそれぞれ引き上げることを認める意見書をまとめた。民営化委は「利用者の利便性の向上に対応する」としており、来年夏の参院選を前にした自民党の意向が反映された形だ。ゆうちょ銀などの業務拡大を警戒する金融機関からは反発の声が上がっている。意見書を受けて来年4月に、ゆうちょ銀の限度額が1000万円から1300万円に、かんぽ生命は1300万円から2000万円に引き上げられる見通しとなった。
意見書はゆうちょ銀について、年金などの振り込みで預け入れが1000万円を超えてしまうケースを念頭に、「他の金融機関が少ない過疎地の高齢者に大きな不便をもたらしている」と指摘。「関係業界との利害調整ではなく、利用者の利便性向上が重要」と引き上げの理由を強調した。一方で、地銀や信用金庫に根強い資金流出の懸念に対し、「ゆうちょ銀に900万円を超える預け入れをしている顧客は全体の4%に過ぎない」として、限度額引き上げ後も1000万円を超える預け入れは限定的だとの見方を示した。
自民党は今年6月、選挙での集票力が強い全国郵便局長会の要請などを受けて、ゆうちょ銀を3000万円に、かんぽ生命を2000万円に引き上げるよう提言。これに対し、民間の金融機関は「民業圧迫になる」などとして反発していた。ゆうちょ銀とかんぽ生命は、今年11月に親会社の日本郵政とともに株式を上場したが、政府はいまだに日本郵政株の大半を保有しており、金融2社にも強い影響力を持っているためだ。
民営化委は今回、引き上げ幅を小幅に抑えることで、一定の配慮をしたとみられる。しかし、ゆうちょ銀の総預金残高は約178兆円(2015年3月)と国内の金融機関で最も多く、金融機関の警戒心はなお強い。全国銀行協会など民間金融機関7団体は25日、「ゆうちょ銀の完全民営化に向けた道筋が示されておらず、引き上げは不公正な競争環境を悪化させる懸念がある」と批判する共同声明を出した。
ただ、金融機関も一枚岩ではない。メガバンクや規模の大きい地銀は、大企業への融資や住宅ローン販売など、ゆうちょ銀と競合しない業務が中心のためだ。保険業界も表向きは反発しているものの、「郵政グループとの提携を水面下で模索する動きが激しくなっている」(金融庁幹部)という。
資金流出懸念の強い規模の小さい地銀や信用金庫については、「昔と比べてゆうちょ銀との意思疎通がずいぶんできるようになってきた」(麻生太郎金融担当相)との見方もあり、日本郵政側も連携を検討する姿勢を示している。
一方、今回の引き上げについて自民党内からは、「1300万円は1歩目に過ぎない。今後に期待している」との声が出ており、全国郵便局長会も「郵便局の利便性回復には大幅に不足する金額だ」とのコメントを出した。民営化委は引き上げから1〜2年後に「再引き上げを検討する」としており、自民党からの圧力がさらに強まることも予想される。