ドコモ、インド「完全撤退」への遠い道のり

NTTドコモが積年の課題に終止符を打とうとしている。2月28日、ドコモは合弁相手であるタタ・グループが、ドコモの撤退に関連する賠償金11.8億ドル(約1300億円)を引き渡すことで合意したと発表した。撤退を決定して以降、どうしても回収できなかった賠償金をようやく手にする可能性が出てきたのだ。

 ドコモは2014年に撤退を決めたが、タタ側は事前の取り決めに従わなかった。そのため、ドコモはロンドン国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てたり、英国や米国でタタの資産差し押さえを強制執行するように申し出るなど、事態は泥沼化していた。

■獲得した電波が割り当てられない!? 

 ドコモがインド進出を決めたのは今から9年近く前、2008年のことである。同年11月に現地の通信事業者であるタタ・テレサービシズ・リミテッド(TTSL)株の取得について、グループの持ち株会社であるタタ・サンズと合意。翌2009年3月に26%の株を2523億円で取得した。2011年5月に追加出資し、TTSLへの投資は計2667億円にのぼった。

 「TATA DOCOMO(タタドコモ)」のブランド名で2G(第2世代の通信規格)によるサービスを開始したのは2009年6月だ。翌2010年には3G(第3世代の通信規格)サービスを開始。契約者数は出資前の2930万件(2008年3月。関連会社の契約者数を含む。以下同)から2014年3月には9800万件と3倍強となり、ドコモの日本の契約者数を軽くしのいだ。

 一方、インド内で競争が激化。ネットワーク構築費用もかさみ、TTSLの業績は芳しくなかった。2012年度に723億円、2013年度に850億円と最終赤字額は拡大。2014年3月末は960億円の債務超過となった。獲得した電波が実際に割り当てられないなど、日本では想像もつかない事態にも見舞われたのだった。

 「進出から5年をメド」としていたドコモは、2014年3月期の業績次第で撤退するための条項をサンズとの契約に盛り込んでいた。「TTSLの株を取得価格の50%か公正価値のいずれか高い価格で売却できる、買い手の仲介を要求する」権利だ。それが進出に当たってドコモが設定したリスク・ヘッジだった。こうした権利は、株を売る(=プット)権利(=オプション)なので、金融用語で「プット・オプション」と呼ばれる。

事態は泥沼化へ

 2014年4月に開催した取締役会で、ドコモはこのオプションの行使を決議。同7月、サンズに売却先の仲介を申し出た。ところが、いつになってもサンズは買い手を連れてこない。そこでドコモはロンドン国際仲裁裁判所に仲裁を申し立てた。2015年1月のことである。

 同裁判所は、「株主間協定の義務不履行があった」とサンズが売却先探しをしないことを問題視。翌2016年6月、ドコモへ11.8億ドルの損害賠償をするようにサンズに命じた。しかし、サンズがこれを拒否。ドコモはタタ・グループの資産差し押さえに入るなど泥仕合の様相となった。

 流れが変わったのは昨年10月だ。強硬姿勢を崩さなかったサンズのサイラス・ミストリー会長が解任され、創業一族で前会長のラタン・タタ氏が暫定会長に就くと、紛争解決に大きく動き出したとされる。ただ、今回のドコモとサンズとの合意だけでは、決着にはほど遠そうだ。最終的な決着には、超えなければならないハードルがある。

■「良好な日印関係のシンボル」はポーズ? 

 まずはデリー高等裁判所がどんな判断を下すか、である。サンズがドコモに賠償金を支払うことをインドの司法当局が認めるかが焦点だ。同裁判所が認めたとしてもまだハードルがある。インドの中央銀行に当たるインド準備銀行は「プット・オプションの行使を認めない」とし、そのことがサンズの態度を硬化させてきた面があるからだ。

 ドコモは総額2667億円で取得したTTSL株の減損をたびたび実施。2014年に448億円まで減損、さらに2016年にはついに全額減損している。賠償金が全額入金されれば1300億円の営業外収益が発生する可能性があるが、裁判所や中央銀行の判断次第、という面は依然として残る。

 ちなみに、今回のドコモのリリースには「デリー高等裁判所により(ロンドン仲裁裁判所の)仲裁裁定の実現が認められた際、ドコモは、タタ・サンズとの新たな協調体制のもと、回収された資金をインドにおける産業の発展のために活用することを検討してまいります」とあり、「サンズとの新たな協調体制が、良好な日印経済関係のシンボルとなることを期待している」とまで書いている。

 「巨額の賠償金を得てもインド国内に投資する」というメッセージともとれるが、これはおそらく、巨額資金の国外流出を問題視してきたとされるインド準備銀行へのポーズに違いない。ドコモが撤退を決定してからすでに3年が経過する中、インドの規制当局にこの文言がどう響くのか。決着に向けて進んではいるものの、予断を許さない状況だ。