かつての「電線御三家」、なぜ今絶好調なのか

「とにかく足りない。作れば、作っただけ売れる」「世界的に需要が盛り上がっている」。かつて「電線御三家」といわれた古河電気工業、住友電気工業、フジクラの3社が絶好調だ。

牽引するのは光ファイバーをはじめとする光関連事業だ。光ファイバー網や無線通信、携帯電話基地局、データーセンターを結ぶネットワークは、大容量化、高速化、クラウド化に対応して技術は日進月歩。こうした情報通信インフラの高度化が進展する中で、新たな投資も拡大している。

■自動車関連と並んで情報通信部門が育つ

 「電線御三家」といっても死語に近い。というのも、3社の売上高に占める「電線」の比率がきわめて小さいからだ。

 各社とも電線事業は縮小し、電線を独立した事業セグメントとして公表する企業はなくなった。その一方で、共通する主力部門が「自動車関連」。自動車の電装品をつなぐワイヤーハーネスが中心だが、最近では「軽量化に対応したアルミハーネス」(住友電工)、次世代の自動運転支援に不可欠といわれる「周辺監視レーダー」(古河電工)など、その中身は変化している。

 そして新たな収益柱に育ってきたのが、情報通信部門だ。3社の情報通信部門の2017年3月連結予想売上高をみると、住友電工2200億円、古河電工1600億円、フジクラ1533億円。いずれも光ファイバーなど光関連が9割前後を占め、光関連部門といっていい。しかも、営業利益でみると、同部門はこの3年だけで2倍〜4倍になり、利益全体に占める比率は、住友電工12%、古河電工40%、フジクラ36%(東洋経済推計)と大きな柱に育ってきた。

データセンター向けは日本の牙城

 光関連といってもさまざまな製品がある。ざっくり言えば、光ファイバーの前工程である母材製造(ガラス管)に始まり、光ファイバー、それを束ねた光ファイバーケーブル、海底光ケーブルなど長距離送信の時に途中で増幅に必要な光アンプ(アクティブデバイス)、データセンターが受発信する時に必要な光トランシーバ、デジタルコヒーレント用光デバイスなどがある。

 光ファイバーの世界シェアトップ3は、米コーニング、伊プリズミアン、そして古河電工だが、「最近は中国勢が低価格で攻勢をかけており、世界シェアは変わりつつある」(業界関係者)というのが実態だ。

■日本勢が強さを発揮

 しかし、光ファイバーの前工程を含めた生産性や曲げに強いなど光ファイバーの品質、光ファイバーをケーブルにまとめ上げる技術、さらにデータセンター向けの大容量通信に対応した光関連のキーデバイスでは日本勢が強みを発揮、高いシェアを持つ。光信号の光源、増幅、分岐などで光デバイスが使われるが、レーザーダイオードモジュールやスプリッタなどで高品質な製品を供給している。

 デジタルコヒーレントは、光ファイバーの伝送性能を飛躍的に向上させる技術だが、そこに使われる光部品の波長可変レーザーモジュール(ITLA)では古河電工が世界シェアでトップに立つなどレーザーモジュールに強い。また、フジクラは光ファイバケーブルの接続で必要な「光融着接続機」で世界シェアトップ。住友電工は光トランシーバなど小型・高集積技術で先行、100Gbpsの光トランシーバでは世界シェアトップだ。

 ただ、技術は日進月歩、次々に新しい技術開発が行われており、あぐらをかいている暇はない。海底ケーブルなど長距離(幹線600キロメートル以上)は100Gから400Gへ、メトロネットワーク(データセンター、都市間などの中距離10〜40キロメートル)では10Gから100Gが主流となる見通しで、高出力、狭線化、高機能集積などが求められている。

 たとえば光ファイバーをより細くして、一本のケーブルにするローラブルリボンケーブルは、4心、8心、12心から、さらに「超多心」へと次世代ケーブルの開発競争が展開されている。細径ファイバーで高密度化する技術だけでなく、それを接続する技術も必要になってくる。こうした技術力はいまのところ日本勢が一歩リードしている。

中国で高速・大容量化が進む

 情報通信関連の投資が世界的に活発化しているのは、まずは中国向けだ。インフラ整備がまだ進んでいない東南アジアも同じだが、中国は市場規模が違う。さらに、米国を中心に北米市場も需要が拡大している。かつては通信会社がデータセンターを建設していたが、ここ数年はグーグルやアマゾンといったIT企業も自らデーターセンター建設、拡張して、さまざまなサービスを展開している。同じことは欧州でも起こっている。

 日本勢3社の研究開発や設備投資は活発化している。たとえば住友電工は、2016年度の情報通信関連の国内設備投資は228億円(前期比82%増)、研究開発費180億円(同6.5%)と自動車部門の伸び率を上回っている。

 古河電工は国内の三重県、中国、ブラジル、ロシアなどに光ファイバーの生産拠点をもっているが、新たにアフリカ市場も狙ったモロッコ工場も建設、2016年末に稼働を始めた。

■かつての失敗を生かせるか

 ただ、光関連投資にはトラウマもある。古河電工は2001年7月に米国のルーセント・テクノロジーズから光ファイバー・ケーブル部門を買収、約2800億円もの資金を投じた。当時は光ファイバー生産で一気に世界シェア2位まで浮上した。しかし、タイミングが悪かった。米国を中心とする1990年代のITバブル末期、崩壊の時である。その後、2008年にはリーマンショックで世界的な金融不況が追い打ちをかけた。

 「いまは世界的に需要が盛り上がっているが、未来永劫続くことはない。ここ2〜3年か。確実に言えるのは、来年度まで作れば売れる状況が続くだろう。しかし、それ以降はわからない」というのが、業界関係者の見方だ。それだけに設備投資の大幅拡大には慎重論もある。

 むしろ技術開発に力を入れて、つねに最先端の製品を供給すること、さらに光ファイバー・ケーブルから関連製品・装置、ソフトウエア、施工、保守メンテナンス・サービスまで一貫したソリューション・システム事業を拡充することが重要になる。かつての電線御三家は、どこまで変身を遂げることができるだろうか。