人口減少なのにアパート建設がブーム、後を絶たないトラブル〈AERA〉
日本にマンションが誕生して60年以上。今も年に10万戸ずつ増えている。たが一方で、建物と居住者の「二つの老い」や運営管理への無関心などにより、荒廃するマンションが急増している。何が起きているのか。防ぐ方法はあるのか。AERA 5月29日号では「限界マンション」を大特集。近年、人口減少が問題視されているにもかかわらず、全国的にアパート建設は増加の一途をたどっている。そして、その現象の裏で、さまざまなトラブルも起きているという――。
「この辺りはアパートがじゃんじゃん建っている。アパートの建設会社の名刺が毎日のようにポストに入っていますよ」
さいたま市の浦和美園駅周辺。土地を所有する60代男性は、建設が相次ぐ現状に困惑気味だ。実際、街中はどこに行っても工事音が聞こえてくる。
駅周辺は、約320ヘクタールの土地区画整理事業を中心に新市街地形成をしている最中だ。多くの農地が市街化区域になり、固定資産税がけた違いに跳ね上がった。金食い虫の遊休地を持てあます農家に、アパート建設業者が節税効果と利回りを“売り”に営業攻勢をかけ、次々と建設。だが新築でも場所によっては空室物件も目立つという。
「今後は人口がどんどん減るのに、アパート建設会社は受注を取ると、その隣へと営業をかけていく。危なっかしいことをすると思って見ています」(先の男性)
●需給踏まえぬ“活況”
建設ブームは全国的だ。日銀によると、2016年のアパートローンは前年比21%増の3兆7860億円。比較可能な10年以降で最高。金融機関による16年の不動産向け融資も12兆円を超え、過去最高を記録している。
活況の背景にはいくつか理由がある。15年の税制改正で相続税の課税対象が広がり、節税目的の建設に踏み切る地主が増加。マイナス金利下の金融機関の融資先として、比較的高い利幅が見込めるという事情もある。
そんな中、多くの地主が選ぶのが管理に手を煩わされず、賃料収入も安定する「サブリース」だ。建てたアパートを業者が一括して借り上げ、空室の有無にかかわらず一定の賃料を大家に保証する仕組みで、貸し手である金融機関と、借り手である地主のニーズが一致し、そこにサブリース業者が介在する。
だが、需給が大きく狂えば、融資は不良債権化しかねない。日銀が地銀等と信用金庫を対象に16年9月中旬〜10月中旬に行ったアンケート調査では、貸家業向け貸し出しのリスク管理として、周辺の家賃相場を調査していたのは42%、周辺物件の入居率を調査したのは32%、人口動態を踏まえた需給動向を調査したのはわずか24%という。
これがきっかけとなり、サブプライムローン問題のような事態を招きうるのか。
日本不動産研究所不動産エコノミストの吉野薫さん(39)は、
「アパートは新築の間は入居者を獲得しやすく、問題はじわじわとしか顕在化しない。一方で地方金融機関の体力を徐々に失わせ、金融システムの安定性に悪影響を及ぼしかねない」
とし、こう指摘する。
「当事者間のコミュニケーションが正しくなかったために、ひずみが出てきている」
事実、契約を巡る業者とオーナーのトラブルは後を絶たない。愛知県の男性(80)は2月、サブリース大手のレオパレス21(東京都中野区)を相手に訴訟を提起。男性によれば、家賃収入は10年間不変と契約書にはあり、30年間は賃料を減額しないと説明も受けて建てたという。ところが、6年後に業績悪化を理由に減額。業績回復後も賃料が戻らないため、差額分の支払いを求めている。
●トラブル急増の可能性
この件を同社の宮尾文也取締役(57)に尋ねると、「リーマン・ショックで家賃相場が崩れ、男性の同意を得て賃料を見直した。近隣の相場と比較しても妥当な家賃と考えている」とする。一部オーナーでつくるLPオーナー会(名古屋市)の前田和彦代表(61)によると、契約書に賃料10年間不変とあるのに10年未満で減額となった会員は1千人以上おり、「そのうち100人ほどで全国で訴訟を起こすことも検討中」と話す。
水面下でカウントダウンが進むこの問題。サブリース被害対策弁護団長の三浦直樹弁護士(52)は、こう警告する。
「この問題は時限爆弾のようなところがあり、建築後しばらくの経営は順調で、オーナーはトラブルだと認識しない。アパート融資が増えており、今後トラブルが増える可能性は、高い」