カジノ誘致、地方都市に危機感 政府指針で上がるハードル
カジノ解禁が観光の拡大や経済の活性化を後押しすると期待する地方都市が揺れている。日本のカジノを含む統合型リゾート(IR)設立に向け、政府が示したガイドラインが、大都市型の施設を優先するような条件を示したためだ。来年以降にも見込まれる地域選定のプロセスで、地方都市は劣勢に立たされたと危機感を募らせている。
IR誘致を目指す地方都市の関係者が困惑するのは「IR推進会議」が5月に示したIRの制度に関するガイドライン。IRを誘致する地域について、1)「日本の国際競争力の向上が図られる機能」を持つことを求め、当初は国内で2カ所程度からスタートする、とした。
また、2)IR施設の「地理的一体性」も条件となり、近隣の複数の都市が連携して誘致できなくなった。候補地については、まず国が地域を選定するのではなく、先にIRを誘致したい地域の自治体と、それを運営する企業がチームとなって申請してから、地域が選定される手順になる方向。
これらは最終決定ではなく、あくまでもガイドラインとされるが、複数の関係者は「政府の最終決定に極めて近い」とみる。
「国際競争力」という点では、見本市や国際会議で使われる展示場も目玉の1つとなるため、相当な規模の施設が整備される必要がある。
現在、日本にある展示場のうち、最大規模の東京ビッグサイト(東京都江東区)の総床面積は9.7万平方メートル。世界最大の独ハノーバー国際見本市会場の約5分の1、アジア最大の中国(上海)の国家会展中心の4分の1以下で、展示場の世界ランキングでは73位、アジアでも19位にとどまる(2015年時点)。
ガイドラインがIRを誘致するロケーションに「国際競争力の向上が図られる機能」を求めるというのは、「せめて世界10位くらいの規模の展示場を作って欲しいということ」(関係筋)と、政府の考えを解説する向きもある。
<地方創生はどこへ>
こうした状況に、IRを誘致したい地方都市は危機感を募らせる。
和歌山県の仁坂吉伸知事は、このように規模の大きなものを歓迎する指針が示されると、「地方には(誘致する)可能性がなくなってしまう」と危惧する。当初、IRを観光や地方創生の一助にしようとしていたアベノミクスの方針にも反するのでは、と疑問を呈している。
仁坂知事は、IRの法整備を担当する各省庁の関係者が「失敗するプロジェクトを作ってはいけないと思っている」とも指摘し、シンガポールのように大規模な投資が成功した事例を意識しすぎる省庁関係者らをけん制する。和歌山県やその他の地方都市の関係者は、今週も永田町を訪問し、ガイドラインの見直しなどを要請している。
<選定の順序に異論>
北海道釧路市は、国がIRを誘致できる地域を選定する前に、地方公共団体と運営会社が組んで、申請手続きをしなければならない手順に懸念を示す。
大都市が優勢と思わせる今回のガイドラインをふまえると、海外のカジノ運営会社の関心は収益性の良い大都市に向くと考えられるからだ。釧路市の菅野隆博・観光振興室長は「(地方都市と)タッグを組んでくれるオペレーターが現れるのだろうか」と懸念する。
釧路は、苫小牧市などと連携してIRの設立を目指す予定だが、ガイドラインは複数の自治体が連携して申請することを認めない方針。北海道は計画の見直しを迫られる可能性があり、釧路市としても「何らかのかたちで声を上げていきたい」(菅野氏)という。
もっとも、地方都市の関係者のなかには、ガイドラインにとらわれず「身の丈にあった施設を作ればいいのでは」と、冷静な声もある。
政府のIR推進本部のもとで、IR実施法案を具体的に検討する「IR推進会議」の山内弘隆議長(一橋大学大学院商学研究科教授)は31日、地方都市からガイドラインについて反論が出ていることについて「われわれとして(それに)コメントはない」とのスタンスを示した。
IR選定をめぐり、誘致を進める自治体や地元政治家、ビジネスサイドの動きも含めて神経質な展開が繰り広げられそうだ。