楽天がAmazonに勝てない理由は「物流哲学の差」にあった 割引している場合じゃない

かつて国内ネット通販の二大巨頭として激しい勢力争いを繰り広げてきたアマゾンと楽天に、決定的な違いが生じつつある。次々と新しいサービスを繰り出すアマゾンに対して、楽天は具体策を打ち出せない状況が続いている。アマゾンと楽天は何が違ったのか、今後、楽天に復活の可能性はあるのかについて探った。

■「楽天ポイント」に頼りすぎ

楽天の2016年12月期決算は、営業利益が前年比17.6%減の739億円と2期連続の減益となった。売上高は9.6%増だが、主力のEC事業で販促費用がかさみ利益を圧迫した。減益要因のひとつといわれているのが、同社が2016年1月からスタートさせた「楽天スーパーポイントアッププログラム(SPU)」である。

これは楽天市場におけるポイント制度を大幅に拡充した新しいキャンペーンである。通常、楽天市場では商品を購入すると100円あたり1ポイントが付与される仕組みになっている。貯まったポイントは商品の購入などに使うことができるので、ポイント制度の存在は顧客の囲い込みにつながる。

楽天の三木谷浩史社長 Photo by GettyImages

楽天では、こうした通常ポイントに加え、楽天カードを利用すると追加でポイントを付与したり、期間限定でポイントが数倍になったりするキャンペーンを、随時行なっている。今回、実施されたSPUはこれをさらに拡充したものである。

注文をアプリ経由にする、プレミアムカードを利用する、電話サービスの楽天モバイルに加入するなど、あらかじめ決められた条件を満たすと、通常ポイントの比較で最大7倍のポイントをゲットできるというものだ。

ポイントは最終的には商品と交換できるので、このキャンペーンは事実上の値下げということになる。このため楽天では、キャンペーン実施のために、かなりの予算を確保する必要に迫られ、これが営業利益を押し下げた。

同社の国内EC事業の売上高は3112億円と前期比9.3%と大きく伸びたが、同部門の営業利益は775億円と20%近くのマイナスとなっている。営業利益の減少分が販促活動に回ったと考えていいだろう。

つまり楽天は、国内のEC事業を伸ばすため、コストをかけて販促活動を行ったわけだが、EC事業での売上高を確保するため、消耗戦を行ったと解釈することもできる。楽天がここまで必死になっているのは、当然のことだが、アマゾンの追い上げが激しくなっていることが要因である。

■なるほど、この仕組みが…

楽天は2015年の第3四半期から楽天市場単体での流通総額を公表しなくなった。上場企業が開示をやめる時というのは、当該事業が順調ではないというケースがほとんどである。

2016年度に楽天が取り扱ったEC流通総額は約3兆円と前年比で12%増えたが、この数字は楽天トラベルにおけるホテル予約なども含めた数字であり、以前、開示していたECサイトの流通総額とは異なる。楽天市場単体の流通総額の伸びはもう少し小さいと考えた方がいいだろう。

一方、アマゾンの日本国内における売上高は約1兆2000億円で2015年と比較すると20%以上も拡大している。アマゾンは、一部でマーケット・プレイスなど自社以外の出店者の商品も扱っているが、楽天とは異なり、自社で仕入れた商品を中心に販売を行っている。

楽天のビジネスモデルは、楽天市場という場所を貸し出すことで出店者から料金を徴収するというものなので、あくまで販売主体は出店者側にある。

この仕組みこそが、楽天が一気に業容を拡大できた理由だが、すべてを自社で取り仕切るアマゾンとの差がここまで縮まっているというのは、楽天にとってはかなりの脅威となるはずだ。

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アマゾンはここ1〜2年で斬新なサービスを次々と繰り出している。2015年に開始したプライムナウは、年会費3900円のプライム会員を対象に、アプリを通じて注文した商品を1時間以内に配送するという即時サービスである(1回あたり2500円以上の注文が条件で890円の配送料が必要。2時間以内でよければ配送料は無料)。

2016年には自社で直接販売しないマーケット・プレイスの商品についても「お急ぎ便」で受け取ることができる新サービス「マケプレプライム」を開始した。一定基準を満たした出店者の商品については、アマゾンが取り扱う商品と同様、お急ぎ便の対象となる。

2017年に入るとプライムナウのサービスを拡充し、三越日本橋本店、マツモトキヨシなどの商品も即時配達サービスの対象にした。また同じタイミングで、野菜や果物、鮮魚など生鮮食料品を配送する「アマゾンフレッシュ」もスタートさせている。

10万点近くの食料品や日用品を最短4時間で自宅に届けてくれるというもので、プライムナウと同様、アマゾンフレッシュについても、アマゾンの自社配送網を使ってサービスを提供する。

アマゾンからの取り扱いを増やしたヤマト運輸が荷物をさばき切れなくなり、アマゾンに対して値上げ交渉を行うという事態になっているが、これもウラを返せば、アマゾンが便利なサービスを次々と打ち出し、利用者数と利用頻度を増大させたからにほかならない。

アマゾンがサービス・レベルにおいて楽天を大きく引き離すことができた理由は2つある。ひとつは物流に対する考え方の違いであり、もうひとつはビジネスモデルそのものの違いである。

アマゾンは一連の高度なサービスを実現するため、ここ数年、大型の物流センターを相次いで建設しており、すでに13ヵ所のセンターを自前で運用している。

その中でも最大規模となっているのが2013年に稼働した小田原の物流センターで、延べ床面積は約20万平方メートルに達する。米アマゾンの物流センターの平均的な面積が11万平方メートルであることを考えると、小田原の施設は世界的に見ても大きい。

また、昨年8月に川崎市にオープンした物流センターでは、国内初となるロボットによる商品管理システム「アマゾンロボティクス」が導入されている。

アマゾンは全社的になかなか利益が出ない状況が続いていたが、ウラではこうした巨額の投資を続けていた。一連の巨額投資がようやく実を結び、利益に貢献するようになっている。

楽天もアマゾンに対抗するため、出品者の配送を取りまとめる物流センターの構築を計画していた。当初は全国に8ヵ所のセンターを構築する予定だったが、計画は順次縮小となり、現在では千葉県の市川市に2ヵ所、兵庫県川西市に1ヵ所の合計3カ所の運用にとどまっている。

3拠点を合計しても延べ床面積は15万平方メートル程度なので、アマゾンと比較すると規模の小ささは一目瞭然だ。

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■再起できるか

両社の違いを分けたのは、物流に対する考え方そのものである。楽天にとって物流は付随的なものでしかなく、ビジネスの根幹部分であるとは認識してなかった可能性が高い。もしそうだとするならば、原因は楽天のビジネスモデルそのものにある。

先にも述べたように、楽天は、出品者から出店料を徴収するビジネスモデルを基本としている。楽天にとって直接利益をもたらしてくれる「お客さん」は出店者であって利用者ではないのだが、この事実は、時に利用者との間に利益相反をもたらす可能性を秘めている。

楽天にとっては、出店者のサービス水準が低くても、出店者から徴収する料金さえ確保できれば自社の業績は拡大する。

もちろん最終的に利用者の支持があってこそだが、顧客である出店者側の事情が最優先されやすいのは事実である。新しいサービスを登場させるにしても、出店者側の協力を得ないとプロジェクトは進まない。

一方でアマゾンの顧客は常に利用者である。アマゾンは自らの収益を拡大するためには、利用者の満足度を向上させなければならず、こうしたプレッシャーが高度なサービス開発につながった可能性は高い。

とりあえず楽天はEC取扱量を拡大させることに成功したが、これは多少無理な値引きで実現した数字といってよい。無制限にポイントを引き上げることはできないので、この販促もいつかは限界がやってくる。

取扱量を継続的に確保していくためには、「お金」ではなく「サービス」の中身で「最終利用者」という「顧客」の満足を確保しなければならないが、超えなければならないハードルは高そうだ。